理不尽さに揉まれた美容業界一年目
小顔で首が長く見え、スタイルがよく見えるようなバランスのヘアデザインを。
タッキー&翼のコンドウです
こんばんは。
とある美容師さんのコミュニティで、それぞれお題を決めた記事を書いてみようってのがありまして。年がら年中ブログのネタ詰まりを起こす自分には持ってこいだなと思い、一も二もなく飛びつきました。
今回のお題は「美容師一年目の衝撃ストーリー」
一年目といえば19歳。もう20年も前のことですよ。
スーパーに来て、何を買いに来たかも忘れてしまうくらい記憶力が衰退してるのに、果たしてそんな昔のことを鮮明に思い出せるのでしょうか。
また当時はデジカメもなく、携帯も写真機能がないため、手元に写真などないので、本当に記憶だけを辿って思い出さなければなりません。
しかも「衝撃的なストーリー」というワード。
これは中々に難しい。
人生でそんなに衝撃受けることって、みんなあるんですかね???
みんなそんなにドラマティックな人生歩んでるんですかね???
物事にあまり動じないタチなので、衝撃を受ける事自体が人生でも片手で数えるくらいしかないです。タコライスとはタコが入ったゴハンではないと知った時、とか。
ドラフト一位指名で前会社にスカウトされ、当時スタイリストになるのに平均2年くらいかかるところを、1週間で全ての試験にパスし、スタイリストデビュー当日前夜より最後尾が見えないほどの行列ができ、ついた通り名は「コーミングのマサ」
伝説のデビュー初日以来、次々と記録を塗り替え、その噂はやがて海外にも届き、なぜかNBAからの熱いオファーを受けて渡米。通り名を「ダブルドリブルのマサ」と改名し、全米を震撼させた。
自分がこんなドラマティックな感じの逸材とかであればいくらでも書けるんですが、平凡な人生を送ってきたので、どれだけ一生懸命に当時の記憶を掘り起こしてみても、酒飲んで踊り狂ってるか、鼻クソほじりながら股間をポリポリかいてる自分の絵面しか出てきません。
しかし、そんなことを言っていては話が進まないので、箇条書き風に印象のあることを書き起こしてみようと思います。覚えてるってことはある程度の衝撃があったってことでしょうから。
・入社2日目で夜逃げした同期
入社してすぐは確か新人研修みたいなのを受けさせてもらってた記憶があります。
3日目にして来なくなった同期がいました。
研修会場に来ないので上司が同じ寮に住んでた先輩に確認させたところ、部屋の荷物が消えていたとのこと。
未だに神隠しの可能性も否定できませんが、「まぁ毎年いるよ、こういうの」と先輩がポツリと言ったのを聞いて、人が消えるって簡単なんやな、と戦慄したものです。
単純計算したら、1ヶ月で新入社員全員いなくなるペース。
「ここは俺には合わない」と判断しての行動だったと思うのですが、今考えればその見極めの早さや判断力、決断力と行動力のスピード感はある意味で、すごい。
・初任給13万
花粉の時期以外で、初任給の明細を見たときほど目をこすったことはないかもしれません。
手取りにすると約11万。学生時代に夏休みバイトしまくって給料20万を超えた経験があるので、社会人の厳しさと理不尽さを痛感しました。
10近く歳の離れた先輩に「自分のときは9万(手取り7万)だったよ」って聞かされて、「お!じゃあ結構もらえてる方なのか」と安堵しましたが、そんなやりとりが飛んでる時点でこの業界はおかしい。
*注:今はどこのサロンも初任給はもっとまともになってるはずです
・試験に受かってなくてもやらされる
美容院というのは入社したら、だいたい各技術の試験があります。
始まりはシャンプーの試験から、そしてカラー剤の塗布、パーマ巻きなどなど、合格するごとにサロンワークでその施術に入ることが許され、最終的にカットの試験まで終わるとスタイリストとしてお客様に入ることができます。
入社2ヶ月目のあるサロンワークの日。
その日はサロンのキャパシティを完全に無視した数の予約が入っており、途中で逃げ出したくなるほど忙しい日。
先輩もすでに朦朧とした目付きで仕事をしながらも、たくさんのお客様をお待たせしている状況で、なんと全頭に細かいハイライトカラーを入れる施術をしなくてはいけなくなりました。(結構時間のかかるメニューです)
対して空いてるアシスタントは僕ひとり。その僕はというとこの時点でシャンプーすらも合格してないゴミ要員でした。
そして朦朧とした目つきのままの先輩から発せられた耳を疑う一言。
「ウィービング(ハイライト)できる?」
は?何言ってんだ?コイツ
「いや、まだ習ってないです」
「オッケー。こうやってチョンチョンチョンとチップとって薬塗るだけだから。それをこのくらいの幅でやってって。」
「オッケー」の意味がまるでわからない。
その先輩を汚物を見るかのような目で見ましたが、体育会系の美容業界では先輩の言うことは絶対。
先輩が白だと言えば、例え黒でも白となり、先輩がマギー司郎だと言えば、例えモデルのマギーでもマギー司郎となる理不尽で不思議な世界。
*注: 実際はそこまで体育会系ではないです
額にあぶら汗を浮かべながら2時間半ほどかけて施術終了しました。
シャンプーをし、乾かして仕上がりを見たら、60枚以上入れたはずのハイライトは、入れた位置が悪いのかどう控えめに見ても10枚分くらいしか見えない。
どうりでロングヘアのはずなのにやたら短い髪の毛ばっかりに薬を塗ってる気がしてたんだよ。
なにが一番驚いたかって、営業終了後に先輩にお礼や労いの言葉をかけられるどころか、仕上がりについて叱咤されたことです。ふざけんな。
・人間は食わず寝ずでも意外と普通に生きていけれる
ある日サイフを落としました。
給料丸々1ヶ月分くらい入ってるやつを。
前述したように、決して高いとは言えない収入だったのでたいした蓄えもなく、その1ヶ月の食事はほぼ食パンでした。
1ヶ月を乗り切って感心したのは、そんな偏食満載の食生活でも、たいしてフラついたり体調を崩すこともなかったこと。
当時の食パンには記載されている成分以外のモノが入ってるとしか思えません。小麦粉の代わりに覚醒剤使ってるとか。
睡眠もまた然り。
仕事の前後には朝練、夜練をこなし、毎晩のようにクラブで遊びまくってたので、毎日の平均睡眠時間は2時間ちょっとってとこでした。
それでも遅刻などせずに、忙しいサロンワークを毎日普通にこなしてたことを考えると、やはり食パンには小麦粉の代わりに覚醒剤使ってるとしか考えられません。
まぁ単純に若かったからでしょうね。絶対マネしないように。
書いてて思ったんですけど、業界に入ってショッキングな事って別にないなぁ、と。
理由として、自分が美容業界に入るときは、あのカリスマ美容師ブームもまだ起きてないくらいの時代で、そんなに美容業界に対して煌びやかなイメージ持ってなかったんですよ。
数々のタレントの髪の毛を手がけ、高級車を乗り回し、東京ドームでヘアショーに単独出演。札束のベッドで睡眠をとり、宮沢りえと電撃結婚する。
そんな甘美な夢を描いてこの世界に入ってこなかったのです。
なので上記の事はどれ一つとして実現しておりません。
むしろ地味な裏方職人生活で、ツライ修行が当たり前って思ってたので、もっとヤバい業界だと思ってたのです。
来年、その先に新社会人になる人も、想像し得る最悪の環境を覚悟して挑むと、案外ツラいと感じることも少なくていいかもしれませんよ。